野鳥の放野(リリース)について
放野(ほうや )、またはリリースとは一時的にあずかって育てていた生きものを元の自然へ帰すことです。「人に育てられ、人になついた鳥は自然界では生きていけない」などとも言われることもありますが、決してそんなことはありません。実際に自然の中に帰って元気に暮らしているたくさんの野鳥の姿がレポートされています。中には片足しか使えないのに元気に野生の暮らしにもどって、子育てまでがんばっているスズメもいます。
保護して一生懸命育てたヒナは、元気に育つとすっかり家族の一員です。そんな彼らの放野を考えるとき、放野後のいろんな不安が浮かんできますね。人間は弱いです。長く生きられることを願い、安全ばかりを望んでしまい、自分が育てている野鳥にまでそんな思いを託してしまいます。
だけど、野鳥たちの世界にははじめから保証(ほしょう)された安全などありません。彼らは自然の一部としてあっけらかんと「今」を生きています。一瞬一瞬の「今」をくり返し、大人になって強い子孫を残すこと・・・これこそが彼らの生涯(しょうがい)です。だからこそ彼らはあきれる程に陽気で、たくましく荒々しく、いつも生き生きと輝いて見えるのではないでしょうか。
私も数カ月保護して元気に育ったすずめっ子を放野した経験者です。わが家で育てたすずめたちはどの子も私や家族にべったりの甘えん坊でしたが、ガラスも壁もない外の世界にふれた彼らは、はじめはためらったものの、驚くほどの空の高みまではばたきました。自分の力を思いっきりためすように、自分でもそんな力があることにびっくりしているように……。
彼らが私にべったりだったのは、家というちいさな世界には私たち家族しかいなかったからでしょう。そして、飛び立った彼らは私たちのことなどいとも簡単に忘れ去ってくれたようです。一人の人間の存在など、大空や大きな自然の魅力にくらべれば、ちっぽけなものなのでしょう。
野生にもどったすずめっ子たちがその後どうしているのかはわかりません。生きつづけているという確かな証拠(しょうこ)もありません。だけど、私は放野したことを後悔(こうかい)はしていません。それは私が飛び立つ瞬間の彼らの大きな勇気と、全身にあふれる力を見たからでしょう。
外の世界で暮らすおおらかで自由で、時に荒々しくもある野鳥たちを見つめて、彼らの世界の大きさを想像してみてください。彼らはそこの住人です。仲間と空を翔けまわる彼らは、たとえ短くても鳥として生きていけます。可能ならば・・・空へ帰してあげて欲しいと思います。
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放野を判断する
前ページの即席“すずめの学校の全てのレッスンを上手にをクリアできましたか?クリアできていれば、いよいよ野生へ返す準備も完了です!でも、念には念を入れて、最終チェックをしてみましょう。あせらず、じっくりと観察してみましょうね。
放野するか、しないか・・・これは決してどちらが正しいかという問題ではありません。どちらがあなたの育てている野鳥にとってふさわしい方法か、ということを考えてください。
■ 自分でエサを探し、さし餌をしなくて自分でエサを食べて過ごせる
■ 自分で水をみつけて飲む
■ 自分で羽づくろいや水浴びができる(砂浴びはできなくても良い)
■ 翼の力が強く、何度か旋回しながら元気に飛びまわったりできる
■ おどろいた時などにぱっと飛び立ったり、急旋回したりすることができる
■ しっかり止まり木にとまり、止まり木で寝る
■ 何年も人と一緒に暮らしていない
放野が可能だと判断したら、あなたにも野鳥たちに負けない勇気が必要です。彼らの中にある力を信じて、送りだす勇気です。ある意味では、一番勇気が必要なのは里親さん本人なのかもしれません。野生の本能はおどろくべき力を持っています。ちいさな彼らの勇気を見習いましょう。少しでも空に帰れる可能性があるなら、あきらめずに応援してあげましょう。
放野できないと判断したら、できれば家族として育ててあげて欲しいと思います。野鳥を健康に、元気に育てて行くのは大変なことです。障害があればなおさらです。大変なことですが、頑張ってください!
放せる状態ではないが、育てつづけることもできない・・・こうした事情の方はクラブ掲示板の方へご連絡をお願いいたします。
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放野の時期と注意点
専門科にまかせる方法もあります
県によっては自然保護施設や野鳥園、動物園などで野生生物を保護しているところもあり、ケガをした野鳥を施設で育てたり、里親さんにあずけて育ててもらった野鳥を野生にもどすといった活動をしています。もちろん、すべてを自然に帰すことはできませんが、専門のスタッフや医者や里親さんが体調、育ち具合、ケガの状態、性格などで判断し、放野するかどうか、または放野の時期などを決めるそうです。
元気な野鳥に対しては個体ごとに面倒をみてもらうことはできませんが、仲間と一緒に暮らすことでいろんなことを覚えていくこともできるでしょう。近くに安全な場所がない、または同種の仲間がいる場所がないなどという時にはこうした施設にお願いしてみましょう。施設をさがしたい方は保護施設・病院リストへどうぞ。
クチバシに黄色(または白)が残っているうちに放すのが安全です
野鳥の世界では若鳥たちが子育てをサポートしたり、教育をしたりする例がよくあります。よく群れになっているすずめの学校の先生は若鳥たちなんだとか。とくに、クチバシに黄色が残っているヒナは、保護した場所から離れた場所でリリースしても、仲間たちがちゃんとヒナを守ってくれます。ただし、中には例外もあります。
■ ツバメの放野について
ツバメは一日のほとんどを飛びながら過ごしますから、親鳥たちもヒナの巣立ちには十分な成育を待ちます。里親さんも親鳥に習って充分に飛びまわれる力をつけるのを待つべきですが、地域ごとの「渡り」の時期に仲間においてきぼりにされないように育てることも大事です。また、ツバメは高速で飛ぶ鳥ですから、家の中のより広い場所で自由に飛ばせる練習がより一層必要だと思います。大変でしょうが、頑張りましょう!
■ ヒヨドリ、ムクドリの放野について
ヒヨドリとムクドリは放野までにけっこう時間をかけた方が良いそうです。飛ぶようになってからしばらくすると、“換羽(かんう)”といって、全身の羽が抜け変わるので、その換羽が終わって、完全に大人の羽色になってから放野したほうが安全だそうです。
ただし、どちらも野鳥の中でもとくに甘えん坊で、なつきやすい鳥なので、くれぐれも甘やかし過ぎないように気をつけましょう。放野する前には、かなり人嫌いの状態にしておく必要があるようです。里親さんにはつらいことですが、それが彼らのためになります。
《フジ家の京子さんの先輩からヒヨドリに関するアドバイスをいただきした》
■ 甘えん坊の野鳥の場合
ヒヨドリやムクドリの甘えん坊は有名なのですが、オナガなどカラスの仲間もとても頭が良くて、とてもよく人になついてしまいます。こうした甘えん坊の野鳥の場合、里親さんから離して自立させるためには、県の施設などにあずけて放野してもらうのが一番良い方法のようです。同じ種類の野鳥が保護されていることもありますし、他の野鳥たちの中で自立の本能が目覚めることもあるでしょう。県内に施設がある方は相談してみましょう。
■ 成鳥になってしまったら?
ヒナの放野にくらべると時間はかかりるかもしれませんが、元気に飛び回れて自分で餌を見つけることができれば野生の世界に戻れます。次の項目をしっかり読んで、できるだけ仲間と接触できる環境を作ってあげましょう。持って生まれた野生の血は濃いものですし、個体の中にもいろんな性格がありますから、受け入れてくれる仲間は必ずいるはずです。驚くほどすんなりと受け入れてくれるケースも多いものです。
放野にはできるだけあたたかく、エサがふんだんにある時期を選びましょう
長く家で育てるほど自然に帰すのはむずかしくなります。かと言って、焦って放すのも危険です。里親さんはよくタイミングを見計らって、最後の一仕事をやり遂げましょう!
■ 時期と時間帯:お天気がしばらく続く日の早朝
時間が早ければ早いほど、エサのある場所やその日の寝ぐらを見つける時間がかせげて安全です。台風、梅雨、秋雨の頃、長期予報で何日も雨が続くころはさけましょう。
■ 適した場所:仲間がたくさんいるところ
仲間が集まって暮らしている場所にはエサもふんだんにあるはずですし、多くの野鳥が群れで行動をしますから団体行動を見習えます。地域の野鳥の会などに相談して、同種の鳥たちがたくさんいる場所をみつけてあげましょう。育てている場所(自宅など)の近くに同種の鳥が多い場合には、育てていた部屋から放しても良いでしょう。
すずめの場合は今年生まれたクチバシの黄色い若鳥が集まって群れを作っています。いわゆる「すずめの学校」ですが、この群れに合流させられると良いですね。
■ 放野の前にはたっぷりとエサを食べさせておく
飛び立ってから落ち着いてエサをさがしはじめるまでは時間もかかるでしょう。たっぷりと食べさせてから放すようにしましょう。家の近くで放すのであれば、ねんのために住みなれたカゴや見なれたエサ入れなどにエサを入れて、外に出しておくと良いですね。
■ 無理強いをしない
無理に飛ばせるのではなく、窓や鳥かごを開けて、自分から飛び立つのを待ちましょう。何日も飛び立たない場合でも、焦らずじっくり付き合ってあげましょう。寒くてエサがなくなる時期にかかってしまったら、焦らず翌年の春をまちましょう。
地域的な気候の差や年ごとの気温差もありますし、保護している個体の性格によっても放野の時期はちがってきます。ですからとてもむずかしいですが、放す予定地の野鳥たちの行動をしっかり観察するなどしながら、しっかり考えてあげましょう。
渡りをする野鳥の場合には、できるだけ渡りの時期の前に余裕があるように放してあげましょう。
■ 仲間が来たらいつでもOK!
放す時期から少々遅れても、仲間が近くまで頻繁に接近してきて、一緒に鳴き交わすようであれば、大きな放野のチャンスです。安心して放野しましょう。
近くに野鳥がやってくる環境であれば、庭やテラスに餌場(同種の鳥の好む餌を置く)を作って、仲間が来てくれるように仕向けてあげましょう。人に育てられた場合、はじめのうちは仲間をこわがることもありますが、近くで姿を見たり声を聞いたりすることはとても大事なことです。焦らずにじっくりとならしてあげれば必ずなれてくるもので、自分から興味を持って近付くようになってきます。
■ 繁殖のシーズンの前に放してあげましょう
どんな種類の野鳥でも、繁殖の時期が近付くと攻撃的になり、神経質になります。子育ての時期に入ってしまうとさらに神経質になり、いつも一緒に過ごす仲間でさえ攻撃するようになることもあります。ですから、少々寒くても求愛行動が始まる前に放してあげることが大事です。この時期まで人の手で育てたとすれば寒さも乗り切れるほどに成長していますから、保護した野鳥のためには過保護にならず勇気をもって放してあげましょう。
■ 足環は危険!
野鳥を放野するときに目印として足環を付ける方がいます。心配なので足環を付けておくと安心なような気がしますが、足環はかえって事故の元になるようです。鳥類標識調査などで付けられた足環が枝などにひっかかり、逃れようと暴れていて骨折の原因になったのではないかと思われる事例もたくさん報告されています。また、足環によるすり傷が化膿して足をなくしている鳥が多いのには驚かされました。詳しくは人も野鳥も地球の仲間へどうぞ。
もどってきたらどうするの?
わが家のすずめっ子のように一気に飛び立つ子もいれば、すぐに戻ってくる子もいます。個体ごとにいろんな個性があるのでしょう。すぐに戻ってきても大丈夫。根気よくくり返していれば、だんだん自分の方から遠ざかっていくものです。できれば、自由に出入りできる環境を作ってあげると良いですね。気長に、しっかり見守ってあげましょう。
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参考になるサイト紹介
放野に関して参考になりそうなサイトです。こちらも訪ねてみてください。
■ 子すずめ独り立ちの日記:すずめさん
窓を開けっ放しで育て、やがて仲間をみつけて野生の世界に戻っていった“すず”の日記です。私個人としては理想のリリースの形だと思っています
■ 雀の日記:mebiさん
人に育てられたと思われる“鈴音”とたくさんのスズメたちとの交流日記です。私たちがリリースした子たちもこうして元気に生きているのだろうと、とても励まされます
■ 老猫とすずめのお話:RITZ
元気いっぱいに育った“ちょんの字”、片足でも頑張って飛び立った“C3PO”の保護からリリースまでの記録です。
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