Dean Koontzの書庫
ディーン・クーンツの立ち読み

 

ICE BOUND 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
正午……爆発まで十二時間
水晶がくだけるような高く鋭い音をたてて、電動ドリルの刃先が北極の氷の中へ深く沈みこんだ。穴から噴きだしてきた灰白色の軟氷が、かちかちになった雪面にどっとあふれて、数秒のうちにまた凍りついていく。ドリルの螺旋状にひろがった刃先はすでに視界から消え、長い鋼鉄製のシャフトも、その大半が、直径10センチの縦穴の中へ姿を消していた。
・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・

心の昏き川 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
頭にひとりの女を思い描き、心に深い不安をいだきながら、スペンサー・グラントは光のぎらつく夜闇をぬって車を走らせ、あの赤い扉をさがしもとめていた。その横には、警戒を怠らぬ犬が無言でひかえている。ランドクルーザーのルーフを雨粒が叩いていた。 ……七月のある瞬間に長いこと閉じこめられていた男一一いつも変わらぬ輝きをはなつ星々を見つめながら、フィルは悟った。人間の命は運命という鎖から自由でいられるが、人間に課せられた運命がひとつだけある一一自由こそ、人間の運命なのだ、と。
ウィンター・ムーン 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
死に神は、エメラルド・グリーンのレクサスに乗ってきた。車道をはずれ、四つ並んだセルフサービスのタンクを素通りして、二つあるフルサービス用のレーンに、それは止まった。ガソリンスタンドの正面に立っていたジャックは…… ロスには欠点もある。けれど、ここはヘザーたちにとってかけがえのない故郷だし、もっと良い場所にする希望がないわけではないのだ。その晩、冴えざえとした冬の満月がすべるように天空にのぼり、海に銀色の光をちりばめた。
ミスター・マーダー 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
「おれは、どうしても……」快適な皮製のオフィスチェアに深々ともたれ、ゆったり体をゆらしながら、小型カセットレコーダーを右手に持ってニューヨークのエージェントに出す手紙を口述していたマーティン・スティルウォーターはとつぜん、自分がうわ言のようにその同じ言葉をくりかしているのに気づいた。 ……固有の問題を克服するには至っていない、そんな遠未来を舞台にした話だった。タイトルは「クローンの反乱」ジョンとアンはそれを読んだ。すばらしい想像力によって書かれた小説だとふたりは思い、その称賛の気持ちを著者に伝える機会が決して訪れないことを、ひどく残念に思った。
ドラゴン・ティアーズ本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
火曜日は陽ざしと希望に満ちあふれた、カリフォルニア日和というにふさわしい日だった。一ランチタイムに、ハリー・ライオンが他人を射殺する羽目になる瞬間までは。
朝食はキッチンテーブルについて……
……前からずっと、こんなすばらしいものが自分を待っていてくれると信じていた。すばらしいもの、すばらしいもの、それはこの場所、この時間、この人間たち。さあ、チキンを一切れもらえるぞ。ぶあつくて、肉汁たっぷり!
コールド・ファイア 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
スーパーマーケットでの出来事の前に、ジム・アイアンハートには、なにか事件が起こりそうだとどこかでもうわかっていたのだ。彼は夜、野原で大きな黒い鳥の群れに追われる夢を見た。黒い鳥の群れは、翼を激しくばたつかせながら…… ・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・
バッド・プレイス 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
夜は風ひとつなく、奇妙に静まり返っていた。路地はまるで、ハリケーンの目のなかに入り、暴風がいっとき収まってまたつぎの暴風を待つあいだの、見捨てられた海岸のようだった。微かな煙の匂いが澱んだ空気のなかに漂っているが、煙はどこにも見えない。
フランク・ポラードは意識を取り戻したが、ひんやりとした敷石の上にうつぶせに伸びたまま動かなかった。心の動揺が静まるのを期待して待っていたのだ。瞬きをして、焦点を合わせようとする。目のなかで何枚ものベールがはためいているような感じだ。
「きみを愛してくれる光がある」という言葉の不思議さを思い、あらゆる夢のなかでもっとも大きな夢を、二人はあえて夢見ようとした一一人間はけっして、ほんとうには死ぬことはないのだと。
二人は、雄の黒いラブラドール・レトリーバーを飼った。
馬鹿らしく聞こえるというだけの理由から、それをスーキーと名づける。
幾晩か、彼女は恐れを感じた。ときには、彼もそうだった。
二人には、互いの存在があった。そして、時間も。
ミッドナイト本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
夜に走るのがジャニス・キャプショーは好きだった。毎晩のように、十時から十一時にかけて、青い蛍光色のストライプが背中から胸に入った、グレイのスウェットシャツとスウェットパンツ姿で、髪をヘッドバンドで束ね…… ・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・
ウォッチャーズ 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
彼の36歳の誕生日である5月18日、トラヴィス・コーネルは朝の五時に起き出した。そして頑丈なハイキング・ブーツにジーンズ、プレードの青い長袖のコットンシャツを身につけた。ピっクアップに乗ってサンタバーバラの家から…… 『みんなぼくを覚えているだろうか?』
「ええ、もちろんよ」ノーラはひざまずいて、彼を抱きしめた。「犬たちがいるかぎり、そして犬たちと一緒に歩いていける人間たちがいるかぎり、きっとみんな、あなたのことを覚えているわ」
トワイライト・アイズ本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
大統領がダラスで暗殺された年だった。無垢な時代は幕を閉じ、ひとつの考え方、生き方に終止符が打たれた。意気阻喪し、望みは失われたと嘆く人たちもいた。けれども散りゆく秋の木の葉は骸骨めいた枝の姿をあらわに…… ……セントルイス・カージナルスがワールド・シリーズでヤンキースを圧倒し、サンダース大佐がレストラン・チェーンを売り出した年でもあった。しかし、ゴブリンを敵に回したぼくらのひそかな戦いに終止符が打たれた年ではなかった。
戦慄のシャドウファイア本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
空から降る光のきらめきは、まるで雨のように手を伸ばしさえすればさわれそうに見えた。光は窓にさざ波を描き、駐車場の中の車のフードやトランクに色とりどりの水たまりをつくり、木々の葉むらや道路にあふれかえる混雑した車のクロームの部分は濡れたような輝きで…… ・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・

邪教集団トワイライトの追撃 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
「そうだ。人生にはありとあらゆることがある、曲り角があり、分かれ道がある。意味が、そして意図がある」
海が砂の上に泡を立てた。
ジェニーは碾臼の音に耳を傾けながら、どんな神秘や奇跡が、どんな恐怖や喜びが、いまこの時、人々の前に現れるべく碾臼でひかれているところなのか、と思った。
「そうだ。人生にはありとあらゆることがある、曲り角があり、分かれ道がある。意味が、そして意図がある」
海が砂の上に泡を立てた。
ジェニーは碾臼の音に耳を傾けながら、どんな神秘や奇跡が、どんな恐怖や喜びが、いまこの時、人々の前に現れるべく碾臼でひかれているところなのか、と思った。

ファントム 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
物語の幕開けは暗く嵐の吹き荒れる夜ではなく、陽ざしの中だった。これから起こる事態に心がまえがあったわけでも、備えをしていたわけでもない。こんな素晴らしい日曜の午後に、事件が起きると思う人がいるだろうか? 陽ざしは通りかかる車のクローム部品やガラスをきらめかせ、豪華なホテルやカジノを実物より明るく清潔に見せ、空気そのものをきらびやかに輝かせている。物語の幕がおりるのは、暗く嵐の吹き荒れる夜ではなく、陽ざしの中だった。

闇の目本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
真夜中をわずかに過ぎたころ、火曜日になってちょうど四分め、新しいショーの遅いリハーサルが終わって帰途についたティナ・エヴァンズは他人の車の中に息子、ダニーの姿を見たような気がした。そんなはずはない、ダニーは一年以上も前に死んだのだから。 ・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・

ウィスパーズ 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
火曜日未明、ロサンゼルスが揺れた。窓がガタガタと鳴り、風もないのにテラスの風鈴が楽しげな音を奏でた。食器が棚から落ちた家もある。朝のラッシュアワーが始まるころ、ニュース専門のラジオ局KFWBは地震のニュースを最優先で取り上げた。地震の規模は…… ……これから先はいいことばかりだ。生まれてはじめて、二人とも自分が何者で、なにを求め、どこへ向かおうとしているかわかったんだ。過去は乗り越えた。未来は明るい」ローレンスキーの方へ歩いていく間、秋の雨がそっと二人に降りそそぎ、草の中で囁いた。

人類狩り 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
〈占領塔〉の中にあるしまめのう張りの部屋で、ナオリ族のフランは超知能を有機調節頭脳から分離していた。記憶貯蔵細胞を含むすべての刺激から分離し、夢を見ることさえできない状態にしていた。銀河系に存在する無数の世界を通じて彼の種族だけが味わえるらしい、死のような絶対的な眠りを眠っていたのだ。
ナオリ族?とかげ人?彼らは夜ごとに死ぬ種族ではないのか?
眠っているフランにとってはどんな音も存在しない。光も、色の心象も、暑さも寒さも存在しない。長く細い舌に味を感じていたとしても、超知能はそれを知覚できない。事実、すべての刺激が完全に遮断されているので、暗闇さえ存在しない。いずれにしても、暗闇は無を表象するに過ぎないのだ。
〈霊魂〉は一人の女性の肉体にはいって子宮の奥深く進み、受精された卵子の中におさまった。卵子はまだ個性も持たず、思考もなかった。〈追跡者〉には心がないという記憶を除けば。

STRANGE HIGHWAYS 1:奇妙な道 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
奇妙な道 STRANGE HIGHWAYS /田中一江=訳
秋口のその午後、アシャーヴイルへとレンタカーを走らせている時、ジョーイ・シャノンの全身にどっと冷や汗が噴き出した。なんの前触れもなしに、強烈な絶望感が襲ってきたのだ。道の真ん中を走っている最中だというのに、あぶなく…… 「信じれば、この世の中に」セレステはいった。「不可能なことなんかないわ」
ふたりを囲む図書館の中には、過去に生きた人々の人生、実現したさまざまな希望、達成されたあまたの野心、そして手に入れるべき夢が満ちあふれていた。
ハローウィンの訪問者 /田中一江=訳
カボチャそのものの薄気味わるさはともあれ、そこに模様を刻みこんでいる男には、作り出すランタンなどくらべものにならないほど無気味な雰囲気があった。長年カリフォルニアの太陽にあぶられて暮らしているうちに、とうとう体中の…… ……ぞっとするようなそのご馳走を口に詰めこんだ。
でこぼこした頭部のロウソクは急に光が強まって、それまでの何倍も明るく輝いたかと思うと、つぎの瞬間、燃えつきた。

STRANGE HIGHWAYS 2闇へ降りてゆく 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
フン族のアッチラ女王 /大久保寛=訳
霜と雪解けをくぐり抜け、雨季と乾期をくぐり抜けながらその生き物は森の地中で何百年という歳月の間、息を吹きかえす機会を待っていた。死んでいた訳ではない。生きていたし、意識もあった。周囲の深い森の中を…… ・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・
闇へ降りゆく /大久保寛=訳
最上の人間の中にも、暗闇がひそんでいる。ましてや最低の男ともなれば、ひそむどころではなく、それに支配されている。習慣でときたま暗闇に餌をくれてやることもあるが、王国を与えたことは一度もない。そう信じたいものだ。 地下室のドアは永遠に閉ざしたままにしておく。わたしは二度と開けるつもりはない。すべての聖なるものにかけて誓おう。わたしは善人である。そのリストは予想よりも長くなっている。
オリーの手 /内田昌之=訳
七月の暑い夜のことだった。オリーの手のひらにあたる空気は、都会でうだるような暑さに耐えている住民たちの不快感を伝えてきた。 ・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・
ひったくり /大久保寛=訳
ビリー・ニークスは、所有権に関しては柔軟な考えを持っている。富はみんなに分配されるべきだというプロレタリア思想を信奉していた。一一その富がほかの人間のものであるかぎり。 いかにもリューマチらしいゆっくりした動作で、腰をかがめ、ハンドバッグを拾いあげ、しばらく中をのぞきこんだ。やがて、にこにこ笑いながら、ジッパーを閉めた。
/白石 朗=訳
事件当夜は、北東部一帯をブリザードが襲っていた。そのため、太陽が沈んでから好んでは徘徊する動物たちは、暗闇と雪嵐という二重のマントをまとうことになった。 ・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・
ブルーノ /白石 朗=訳
ボトル半分の高級スコッチとシルヴィアという名前のブロンド一一ついでにいっておけば、わるくない女であった一一このふたつをたっぷりきこしめして、おれは熟睡していた。名前はローレラ。踊る姿は夢のよう。たったひとつ、腹話術用の人形に異常なまでの関心を向けることだけが珠に瑕だが、それ以外にはしごくまっとうな頭の持ちぬしだ。 名前はローレラ。踊る姿は夢のよう。たったひとつ、腹話術用の人形に異常なまでの関心を向けることだけが珠に瑕だが、それ以外にはしごくまっとうな頭の持ちぬしだ。
ぼくたち三人 /安田 均=訳
ジョナサンとジェシカとぼくの三人は、食堂を通り凝った装飾の旧式の英国型台所をぬけて父親を転がしていった。裏口を通らせるのに少しばかり手こずった。 ……私たちは新しい種族。新しい感情と、信念と、習慣を持ってるのに」
「あとひと月くらいの間はね」ぼくはいった。

STRANGE HIGHWAYS 3嵐の夜 本棚に戻る
最初の数行 最後の数行
ハードシェル /大久保寛=訳
暗い空に光の動脈が脈打った。そのストロボのような輝きを浴びて、何百万もの冷たい雨の滴が落ちてくる途中で停止してしまったようにも見えている。道路は天の燦きを反射してぎらぎらと輝き、一時、鏡を敷きつめたかのようになった。 フランク・ショウの友人たちは、口をそろえて彼は“固い殻”をかぶっているという。だがそれは、彼らが話すことの半分でしかない。友人たちはこうもいっている一フランクはその殻の下に、たぐいまれなるやさしい心をもっている、と。
子猫たち /内田昌之=訳
河床をすべるように流れすぎる冷たい緑色の水は、つるつるした茶色い岩のまわりに泡を立てて、川岸に並ぶ陰気なヤナギを映しだしていた。マーニーは草むらにすわり、深い淵に石を投げ入れて、果てしなくひろがるまるい波紋がぬかるんだ岸を洗うのを見つめていた ・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・
嵐の夜 /白石 朗=訳
彼は百歳を越えるロボットだった。何世紀ものあいだひたすらロボットを製造しつづけてきた自動工場で、ほかのロボットたちの手で作られたのだ。
名前はキュラノフ一一このタイプの例に洩れず、おもしろいことをさがして世界を旅してきた。
しかしキュラノフの頭には、凍りつくように冷たい思いがとり憑いて離れなかった一一人類のような恐るべき怪物や空想上の生物の存在を信じるしかないのなら、宇宙を合理的な文脈でとらえることは二度と不可能になるのではあるまいか?
黎明 /大久保寛=訳
「あなたは、とことん救いようもない愚かな人になることがあるわ」私が息子からサンタクロースを取りあげた夜、妻はそういった。私たちはベッドに入っていたが、妻はどうやら眠る気分でも、愛を確かめる気分でもないようだった。 だが、自分が死んで、別世界への門をくぐったとしても、わたしはさして意外には思わないだろう。エレンとベンの腕の中に戻っていくときと同じ喜びと幸せを感じながら、神の腕の中へ戻っていくだろう。
チェイス /飛田野裕子=訳
一九七一年、ブルース・スプリングスティーンは有名ではなかった。トム・クルーズもまだ小学生だったし、ジュリア・ロバーツが夜な夜な若い男たちの夢の中に現れるということもなかった。ロビン・ウィリアムズ、アーノルド・シュワルツェネガー……彼らもまだ成功を手にしていなかった。 ……警察は僕に手出しはできない」
「いずれにしろ」グレンダは言った。「罰はあなたが自分で下すことになるわ」
夜空を満月が昇っていく。月の表面をじっと見つめながら、チェイスは過去を破壊したあとに生まれる未来を見透かそうとした。