最初の数行 |
最後の数行 |
フン族のアッチラ女王
/大久保寛=訳 |
霜と雪解けをくぐり抜け、雨季と乾期をくぐり抜けながらその生き物は森の地中で何百年という歳月の間、息を吹きかえす機会を待っていた。死んでいた訳ではない。生きていたし、意識もあった。周囲の深い森の中を…… |
・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・ |
闇へ降りゆく /大久保寛=訳 |
最上の人間の中にも、暗闇がひそんでいる。ましてや最低の男ともなれば、ひそむどころではなく、それに支配されている。習慣でときたま暗闇に餌をくれてやることもあるが、王国を与えたことは一度もない。そう信じたいものだ。 |
地下室のドアは永遠に閉ざしたままにしておく。わたしは二度と開けるつもりはない。すべての聖なるものにかけて誓おう。わたしは善人である。そのリストは予想よりも長くなっている。 |
オリーの手 /内田昌之=訳 |
七月の暑い夜のことだった。オリーの手のひらにあたる空気は、都会でうだるような暑さに耐えている住民たちの不快感を伝えてきた。 |
・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・ |
ひったくり /大久保寛=訳 |
ビリー・ニークスは、所有権に関しては柔軟な考えを持っている。富はみんなに分配されるべきだというプロレタリア思想を信奉していた。一一その富がほかの人間のものであるかぎり。 |
いかにもリューマチらしいゆっくりした動作で、腰をかがめ、ハンドバッグを拾いあげ、しばらく中をのぞきこんだ。やがて、にこにこ笑いながら、ジッパーを閉めた。 |
罠 /白石 朗=訳 |
事件当夜は、北東部一帯をブリザードが襲っていた。そのため、太陽が沈んでから好んでは徘徊する動物たちは、暗闇と雪嵐という二重のマントをまとうことになった。 |
・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・ |
ブルーノ /白石 朗=訳 |
ボトル半分の高級スコッチとシルヴィアという名前のブロンド一一ついでにいっておけば、わるくない女であった一一このふたつをたっぷりきこしめして、おれは熟睡していた。名前はローレラ。踊る姿は夢のよう。たったひとつ、腹話術用の人形に異常なまでの関心を向けることだけが珠に瑕だが、それ以外にはしごくまっとうな頭の持ちぬしだ。 |
名前はローレラ。踊る姿は夢のよう。たったひとつ、腹話術用の人形に異常なまでの関心を向けることだけが珠に瑕だが、それ以外にはしごくまっとうな頭の持ちぬしだ。 |
ぼくたち三人 /安田 均=訳 |
ジョナサンとジェシカとぼくの三人は、食堂を通り凝った装飾の旧式の英国型台所をぬけて父親を転がしていった。裏口を通らせるのに少しばかり手こずった。 |
……私たちは新しい種族。新しい感情と、信念と、習慣を持ってるのに」
「あとひと月くらいの間はね」ぼくはいった。 |
STRANGE HIGHWAYS 3:嵐の夜
最初の数行 |
最後の数行 |
ハードシェル /大久保寛=訳 |
暗い空に光の動脈が脈打った。そのストロボのような輝きを浴びて、何百万もの冷たい雨の滴が落ちてくる途中で停止してしまったようにも見えている。道路は天の燦きを反射してぎらぎらと輝き、一時、鏡を敷きつめたかのようになった。 |
フランク・ショウの友人たちは、口をそろえて彼は“固い殻”をかぶっているという。だがそれは、彼らが話すことの半分でしかない。友人たちはこうもいっている一フランクはその殻の下に、たぐいまれなるやさしい心をもっている、と。 |
子猫たち /内田昌之=訳
|
河床をすべるように流れすぎる冷たい緑色の水は、つるつるした茶色い岩のまわりに泡を立てて、川岸に並ぶ陰気なヤナギを映しだしていた。マーニーは草むらにすわり、深い淵に石を投げ入れて、果てしなくひろがるまるい波紋がぬかるんだ岸を洗うのを見つめていた |
・・・ラストは読んでのお楽しみ・・・ |
嵐の夜 /白石 朗=訳 |
彼は百歳を越えるロボットだった。何世紀ものあいだひたすらロボットを製造しつづけてきた自動工場で、ほかのロボットたちの手で作られたのだ。
名前はキュラノフ一一このタイプの例に洩れず、おもしろいことをさがして世界を旅してきた。 |
しかしキュラノフの頭には、凍りつくように冷たい思いがとり憑いて離れなかった一一人類のような恐るべき怪物や空想上の生物の存在を信じるしかないのなら、宇宙を合理的な文脈でとらえることは二度と不可能になるのではあるまいか? |
黎明 /大久保寛=訳 |
「あなたは、とことん救いようもない愚かな人になることがあるわ」私が息子からサンタクロースを取りあげた夜、妻はそういった。私たちはベッドに入っていたが、妻はどうやら眠る気分でも、愛を確かめる気分でもないようだった。 |
だが、自分が死んで、別世界への門をくぐったとしても、わたしはさして意外には思わないだろう。エレンとベンの腕の中に戻っていくときと同じ喜びと幸せを感じながら、神の腕の中へ戻っていくだろう。 |
チェイス /飛田野裕子=訳 |
一九七一年、ブルース・スプリングスティーンは有名ではなかった。トム・クルーズもまだ小学生だったし、ジュリア・ロバーツが夜な夜な若い男たちの夢の中に現れるということもなかった。ロビン・ウィリアムズ、アーノルド・シュワルツェネガー……彼らもまだ成功を手にしていなかった。 |
……警察は僕に手出しはできない」
「いずれにしろ」グレンダは言った。「罰はあなたが自分で下すことになるわ」
夜空を満月が昇っていく。月の表面をじっと見つめながら、チェイスは過去を破壊したあとに生まれる未来を見透かそうとした。 |