エピソード5:最後のもぅ一歩
●7月14日(金) 晴(43日め)思わせぶりのお留守居役
北村光世先生のハーブ・イベント企画もようやく終了。料理教室の企画も準備も初めてのことで、しかも、どんなものか形だけでも知っているのはRITZ一人。企画書、チラシ、パンフ、レシピ、進行表作りから移動・宿泊の手配、材料や器具の調達とすべての準備を整え(たつもり)、あとはお澄まし顔でプロデューサー・・・とタカを括っていたところ、蓋を開ければ「千手観音になりたい〜!」のドタバタぶり。肝心なところでコケルという生まれながらの才能を見事に発揮して、己のドジさをさらに知らされるハメになった。。
それでも参加者の満足げな笑顔と、また企画して下さいねという多くの声に励まされ、疲れや失敗への後悔も吹っ飛び、満足感とやる気が充ち満ちてきた。特に、崎戸島では六十代から七十代のおばぁちゃん達の参加があり、北村先生の臨機応変で細やかな思いやりのおかげで最後にはきゃいのきゃいのとチーズを買って帰るおばちゃん達の姿があった。北村先生の人柄とおばぁちゃん達の前向きな生き方に感動。。。ちいさな島での大きな思い出になった。
渦潮に巻き込まれたような三日間が終わり、予定を一日遅れて家に戻ると、ピオは家中にテリトリーを拡げていたらしく、いきなり玄関でお出迎え。ディーディーのこともあり、もしやピオまで……とずっと頭を離れなかったので、元気なしぐさの上に積極的な生活範囲の拡大はおおいに嬉しかった。すると菊の字の弁「あっちこっち、あんたば探しよったとよ」・・・泣けてきた。。
殻付き餌は十分に食べていたようで、飛び方にも迫力がある。が、寄って来ない。明らかに喜んで膨らんではいるものの、見るからに興奮して飛び回ってはいるものの、RITZの目の前10cmのあたりでホバリングを繰り返し、ぷいっと逃げてしまう。今日になっても頭や肩に止まろうとはしない。ただただ思わせぶりに頭上近くを蚊のようにうるさく飛び回っている。これもひとつの愛情表現なの……!?
●7月15日(土) 晴(44日め)左手の温もり
イベントの残務整理で今日も佐賀県の伊万里へ。イベント帰りに泊まりに来ていた友人を見送った後、車中で久々に一人きりになった。ふと見ると、車に並行してカラスが一羽飛んでいた。緑に囲まれた山の中の一本道、そこにはRITZと車とカラスだけ。スピードを落として、しばらくディーディーと一緒に飛んでいるような錯覚を楽しんだ。
今になって考えてみると、イベントにディーディーとピオを連れて行ったとしても面倒など見る暇はなかった。それにあの賑やかさ、慌ただしさ、静かな場所などなく、彼等はきっと脅えて消耗しただろう。あまりにもタイミングが良すぎたディーディーの死は偶然だったのか、それとも心やさしい友人がメールに書いてくれたようにディーディーにはわかっていたのか……。久しぶりに左手の空しさに涙ぐんだが、そこにはディーディーの温もりが残っていた。慌ただしさのうちに悲しみも少し姿を変えたらしい。
●7月16日(日) 晴(45日め)不在の効果は…!?
4日間のRITZの不在はピオに自立を促す効果があったのだろうか……と考えあぐねている。
元気にお留守番できていたのだから殻付き餌も十分に食べられた訳だし、カゴに入れられることもなく自由気侭な昼夜を過ごしたことも言うまでもない。室内灯の上の隙間は留守以来完璧にピオの巣になっており、昼間の暑い時間帯の避難場所にもなっている。気が向けば家中を翔け巡り、何故か階段を一段づつ昇り降りすることも覚えた。行く先々には菊の字が用意した餌箱まである始末だが、これは日替わりで場所を変え、餌を探す訓練に当てることにした。が、あまり減ってない。
留守の間にGONZOを怖がらなくなり、朝は寝ているGONZOの足や身体の上で遊んでいる。今日は菊の字が席を離れた後、ついに食卓で昼食を共にした。サラダのレタスとパンをご相伴し、パルミジャーノ・レジャーノ・チーズに喜声を上げ、生まれて初めての冷たい水の美味しさに躍り上がった。仕上げには冷たい瓶ビールがテーブルに残した水で水浴びまでして、すこぶるご満悦の様子。久々に家でだらだらとビデオを観て過ごすくたびれたRITZの頭で、肩で、足の上で、かつてない程でれでれと甘えながら居眠りをしながら一日を過ごしたピオ。これで良いのかぁ………!?
●7月17日(月) 晴(46日め)やはり効果なし!
昨夜は一目皆既月食を見ようと庭でささやかな酒宴と洒落込んだが、ついに月は一度も見えなかった。今朝は午前四時半にダースベーダー・グッチの雄叫びとともに目覚め、すっかり乾ききった鉢物に早朝の水やりなどした。芝生もすっかり伸びきって、針槐もしだれ槐になっている。ついに枯れそうなオリーブや雑草しか生えていない野菜畑を眺めながら、そろそろ庭守に戻る時期なのだと思う。
小松菜を刻み込んだピオの餌を手に鳥小屋然とした寝室へ。飛び寄ってきたピオは相変わらず大口を開けて餌で充たされるのを待っている。お前の口は食虫花かー!と、餌を近付けずに睨み合うことしばし。頑固なピオが近寄って来ない間、ちと遊ぶ。練り餌を左右に動かせば大口も左右に動く。円を描けば大口もくるりと回る。ちょっと楽しい。だけど、呆れ果てる光景だ。
午後、家中の掃除が終わって寝室に行くと、練り餌の器に頭を突っ込んで逆立しているピオを発見!逆立ち食い復活である。ここでついに給餌停止を決意。リリースまで、秒読みか・・・。
●7月19日(水) 晴(48日め)真夏の行水
暑い日が続きピオもあふあふと口を開けて過ごすことが多い日中、ようやく水浴びも本格的にできるようになった様子。とは言っても、まだまだくしゃくしゃにしたサランラップの上にショットグラス一杯程度の水溜まりでの話ではある。他の物に水を入れるとやはり警戒して近寄らないのだからしょうがない。なんとなく貧相な水浴びだ。それに、RITZが側にいないと水浴びをしない。
でも、一旦水浴びを始めると、これが結構豪快。水を得たスズメ(?)は半径2m近くに水を飛び散らせ、びしょ濡れになった羽根をばたつかせながらベッドの上、ソファーの上、RITZの首と彷徨い、部屋中に水しぶきをまき散らす。スズメの行水は見ていて涼し気なものだが、部屋の中となると結構大変なものである。ピアノとマックにカバーをかけ、雑巾片手に待機。ま、夏なので乾きも早いし、あと幾日かの楽しみだ。
今日からは手での餌やりを一切止め、マックの上で甘えた声を出して口を開けても知らんぷり。すると、なんとかお猪口の練り餌を自分でつっ突くようになった。残る問題は砂浴びのみ。今のところ砂箱には見向きもしない。ちょんの字が砂浴び替わりにやっていた座布団サーフィンもしない。実際に砂浴びを始めると床中がざらざらして困ったものなのだが、リリース後のピオの健康を考えると是非とも覚えさせないといけない必須科目だ。。
●7月21日(金) 晴(50日め)ゼイタク極まる!
ここ数日のうちに水浴び大好きになったピオさん、今日は午前中に二回の水浴びを楽しみ、午後にはRITZが用意した飲み水用のショットグラスで水浴びしようとまでしていた。無理だっ!と叫ぶのも聞かず、お腹の辺りだけびしょ濡れになって不機嫌な様子。
手で餌をやらなくなってまだ今日で二日めだというのに、部屋に入るなり餌猪口の横で口を開ける。仕事をしているとマックの上に止まって口を開ける。これまで夜は静かに寝ていたのに、マックが目覚めると一緒に起きてきて、これまた口を開ける。。それでも訓練だ!と知らんぷりしているRITZのおでこを、鼻を、唇をつっ突き回す。こんな調子でホントにリリースできるのだろうか・・・と不安ばかりがいや増す今日この頃である。
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