エピソード6:踏み出せない一歩
●7月22日(土) 晴(51日め)リリース・・・またもや遠ざかる
福岡から訪ねてきた友人と楽しもうとニョッキ作りを思い付き、ついでに近所の奥さん達にも声をかけ、朝から楽しい料理教室開催となった。ジャガイモのニョッキと卵のニョッキ、ソースはトマトとパルミジャーノチーズ、パルミジャーとオリーブオイル、ゴルゴンゾーラのとクリームチーズの三種。わいわいがやがや料理が出来上がると、気分も盛り上がって家族参加のランチ・パーティーに。ちりめんじゃこの特製サラダと赤ワイン、焼き立てパンやワッフルもテーブルに並び、簡単なわりにはゴージャスな食卓。。珍しくダースベーダー・グッチも顔を出した。
宴は夕方前にお開きとなり、RITZは庭で芝刈りの続き。友人は寝室でピオと睨み合いながらネット遊び。ピオはさして怖がる風もなく友人の近くを飛び回っていたが、RITZがたまに顔を出しても寄って来ない。夜になるとピオはいっこうに寝ようとせず、RITZの頭を追いかけ回し、丸一日分のロスを取り戻すかのように深夜まで甘えに甘えた。。リリース・・・またもや遠ざかる。
●7月23日(日) 晴(52日め)なんで?いつ?どうして?
最近遊びに来た友人が二人ともピオを見て何か変だと言った。元気なのであまり気にしてはいなかったのだが、日頃から貧弱だと思っていた尾羽根が気になってつかまえてじっくり見てみると・・・うげっ、まともな尾羽根が一本しかない!ジッとしていないのでちゃんとは見れないが、一本は確実に折れている。なんで〜?いつ〜?どうして〜?そういえば、部屋の中にちいさな羽根が落ちていたのはいつのことだったろうか。どこからか舞い込んだものだろうと気にもしなかったが、あれが、もしかして……(汗)。
自分でやったのか、RITZがやったのか、はたまた自然に抜けたのか……。RITZの仕業だと思う方が可能性は、高い。ま、元気に飛び回っているから大丈夫!と自分に言い聞かせてみるが、やっぱりとても貧弱。側で見ていた友人は「飛ぶのが下手だもん」ときっぱり言った。。あぁ、ごめんよ、ピオ。。。
●7月24日(月) 曇のち嵐(53日め)銀紙サッカー
今朝もまた、スズメよりも早起きになったグッチ婆さんに起こされた。雨という予報だがまだ降っていず、5時には芝生の仕上げを始めた。伸び過ぎていた芝生は刈ると茶色い部分が目立つが、まだ手後れではない。ヘッジを整え肥料をやり、針槐の根元と凹んだ部分に目土を入れた。朝食の後、まだ降り出さないので畑の雑草を取り、昼食後も降らないので空き地の除草をした。久々の庭いじりは始めたら止められず、強風にもかかわらず降り出してからも雨の合間を縫って草取りに励んだ。庭仕事は楽し!
シャワーを浴びて部屋に戻ると、ひょぉひょぉと鳴る風の音、窓に叩き付ける激しい雨の音、ガラスの向うで大きくうねる木々やハーブ達にピオは脅えた様子で餌もろくに食べていない。何か気を紛らす方法はないものか……と、ちょんの字を思い出して銀紙でボールを作って転がしてみた。乗った!つっ突いては追っかけ回し、隅っこに行くとくわえて運び、また転がして遊ぶ。運動したせいか餌もよく食べ、また遊ぶ。無邪気なピオを微笑ましく見守りながら、やっぱり尾羽根が気になる。。。スズメ仲間に聞いてみようと思う。
●7月25日(火) 晴(54日め)ちゅんちゅか
スズメ仲間に聞いてみたところ、尾羽根はまた生えてくるとのことで一安心。でも、その友人が育てているスズメの「ちゅんちゅか」には尾羽根が8本もあるとか。ちゅんちゅかには以前に会ったことがあり、大きくなったのだろうなぁ〜と懐かしく思った。片足がピオと同じようにグーを握ったままの状態で、止まり木にも止まれないので友人が育てている。カメラの前でポーズを取るのがお得意で、ダンナさまのパンツに潜り込むのが好きらしい(わははー)。ピオにはちゅんちゅかの分まで大空を羽ばたいて欲しいものだ。
だが、そのピオには尾羽根は3本しかなかったような……。じたばたしてちゃんと見せてくれないので困る。またまたリリースに不安が付きまとうが、肝心のピオは至って元気満々。今朝は蜘蛛の足が散乱していた。自力で朝食をゲットしたらしい。昼にはベッドのサイドテーブルに置いたグラスが残した水滴で水浴びしようと必死。透明なプラスティックトレーにサランラップをかぶせて、たっぷりめに水を入れてみたが、怖がることもなくすぐに水浴びを始めた。この頃は片足一本で床をちょんちょんと飛び回り、逃げ足も早くなった。ベッドやソファーで砂浴びらしき滑り遊びを始めはしたものの、砂箱にはまだ知らんぷり。。
●7月26日(水) 晴(55日め)またもや、みつめあう一羽と一匹……
まだ暗い早朝、グッチの猛烈な朝鳴きがぴたりと止み、気になって目を開けると、ナント!、グッチの眼前30cmのところでピオが・・・膨らんでいた。これはいつかも見た光景だ。あぁ、ちょんの字。。。
みつめあう一羽と一匹の間には闘争心も恐怖もなく、怨念や食欲も見られず、なにやらそこはかとない親近感、仲間意識のようなものさえ垣間見える。いつの間に?どこで?どうして?ほわっとはっぷん?驚きと失望に呆然としているRITZに向けられた一羽と一匹の視線があたかも「な〜にびっくりしてんだ?」とでも言わんばかりに思えたのは気のせいだろうか。。リリースに暗雲立ち篭める。。。
●7月28日(金) 晴(57日め)思わぬご褒美
しなければならないことが多く、何からやるべきか考え倦ねているうちにマックなど磨いていた。やり始めると止まらず、部屋中の大掃除状態になった頃、ピオはさっさとリビングに渡っていった。掃除が済むと溜め込んでいた羽毛布団や綿毛布、ディーディー専用に使っていたタオルや敷き布など抱えてドライブすること20分、冷房完備のじゃぶじゃぶハウスへ。洗濯の合間に本を読むつもりだったのに、不景気の波に洗われてか、いつの間にやら冷房はなしに……(涙)。
大型洗濯機の発する熱と直撃する西日から逃げ出して車を走らせていると、いつか行きたいと思っていたジャズ喫茶があった。開店前2時間にもかかわらず快く入れて下さり、音は九州一!とマスターが豪語するだけあって、スピーカーから流れる音は迫力満点。。厚かましくクエストまでして体中に響く心地よい音の中で熱いコーヒーと涼し気なホラー小説を堪能。頑張ると思わぬご褒美にありつくものだ!などとほくそ笑んだ。
●7月29日(土) 晴時々曇(58日め)ピオのモーニング・コール
堂々と接触するようになってからというもの、グッチの朝鳴きがピタリと止んだ。しかし、ゆっくり眠れたのはわずか一日、今度はピオのモーニング・つっ突きコールが始まった。。寝ているとつんつん、ちくちく、足や手のホクロをつっ突くのだ。寝返りを打つとGONZOの身体の上に止まり、膨らんで口を開ける。知らんぷりしているとつんつん、ちくちく。。。今朝はついに顔面攻撃に及んだので、避難してリビングで寝ているとGONZOの妙なる雄叫びが……。臑毛攻撃を受けた模様(爆)。
●7月30日(日) 台風(59日め)短くなったピオ……
台風がやってくる!というので、昨日は山盛りたまった枯れ木や草で草木灰作り。今日も朝から、暑い日中には出られない荒れ地の草むしりに励んだ。そして午後、ピオを水浴びさせた時には確かにあったはずの、ちゃんとこの目で見た最後の一本の尾羽根が・・・ない。。。
これでピオの尾羽根はついに全部折れてしまった。ブラインドの裏に入り込んだ時に折れるのではないか、照明の上で折れたのではないか、まさかグッチが……と原因糾明のため目を皿にして寝室を探したがどこにもない。そして、家中を捜しまわったところ、玄関前でちいさな羽根を発見。眺め回してみても、羽根が折れるようなものはなく、謎はさらに深まる。だが、グッチの容疑だけは晴れた。なにしろご老体のダースベーダー・グッチ、このところ階段は途中で息切れして玄関までは行き着かないのだ。。
RITZが庭に出ている間、ピオは家の中を冒険していたのだが、一体どこでどうして尾羽根が折れるのか……。カルシウム不足……?網戸に引っ掛かるのか……?ふと、数日前の水浴びのあと、自分の尻尾を見て驚いて飛び上がっていたピオを思い出した。。何故か、しきりに尻尾を気にしている様子だった。尻尾を見て逃げているようにさえ見えて、何か付いているのではないかと確認したのだった。でも、まさか、自分で尾羽根を取ってしまうなんてことはないだろうし……!?
謎のままピオの身体は短くなり、なんだか貧弱に見え、飛び方はさらに下手になった。ピオ自身は気にする様子もないが、リリースは・・・できるのだろうか???
野生のスズメにとって、人間の家の中には見えない危険がいっぱいなのかもしれない。
●7月31日(月) 曇(60日め)60日めの思い
ピオとの暮らしも60日め。もうとっくにリリースできたはずなのに、なんだかんだと二ヶ月もたってしまった。忙しさでタイミングをはずしてしまったような気もする。ピオでなく、RITZに勇気がなかったような気もする。可哀想なピオ、生まれてからまだスズメらしい暮らしをしたことがない。与えられるだけのこの暮らしの中で、何かしらは得るものがあるのだろうか、とつい考えてしまう。最近は外出から帰ってくると大喜びするようになった。RITZが全て・・・なんてことになっても何の役にもたたないのに。
「60日」というキーワードに少しナーバスになった今日は、気分転換に久々の土いじりをした。ちび共が落ちてきて世話に追われ、種まきから双葉移植まで漕ぎ着けた苗たちはほぼ全滅。わずかに生き延びていた唐辛子(赤唐辛子、ハラペーニョ、チリペッパー、クリスマス唐辛子)の苗を空っぽだった畑に定植した。ちび共の代わりに育ち損ねた唐辛子たち。今からでも元気に育って欲しいと願いながら、ちび共と過ごした様々な瞬間を思い浮かべながら、かわいい唐辛子畑ができた。
ふと見ると、ディーディーのお墓は満開のマリーゴールドに覆われ、はるかに広がる空はピオを待っているような気がした。独りぼっちでo留守番しなくても良いように、独りぼっちでお喋りしなくても良いように、早く仲間のところに返したあげたい。
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