NIGHT VISIONS 4:ハードシェル HARD SHELL
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水の底 |
夏の終わりが近い。午後も遅くなって空が泣きだし、低くわだかまっていた雲から雨が落ちてきた。グレン・コールダーはシボレーのステーション・ワゴンのなかにすわって、プールを見つめていた。二週間前、グレンの息子は、あそこで溺れて死んだのだ。
(ニールはまだ十六だった)グレンは思った。きつくひき結んだ唇は…… |
「おい、レオン!」ジミーが声をかけ、相棒は立ち止まった。「こういうんだ。こいつはなんだかわからないが……とにかく死んでるって!いちばん深いところに沈んでやがったんだ!」
レオンは電話をかけにすっ飛んでいく。
突然、電動ポンプがかくんと動きだし、心臓の鼓動のような音とともに、プールの水を湖へともどしはじめた。 |
五番街の奇跡 |
遅刻だ!遅刻!遅刻!遅刻!遅刻!
ブローヴァーの金時計の針は、冷たく九時十二分をさしていた。心臓が口から跳びだしそうだ……急げ、急げ……皮膚の下でドクドクと血管が脈打つ……急げ、急げ……八月の熱気がまとわりついて首筋がべとつく……急げ、急げ……行く手をふさぐ邪魔者を押しのける……急げ、急げ、急ぐんだ! |
手にした鉛筆をあげてみせる
「これ、どうしたらいいんでしょう?」
「おまえさんの人生のことでも書くんだね」老人はそういって、赤いワゴンを押しながら人々の足のジャングルに紛れこんでしまった。
ジョニーは笑い声をあげながら家へと駆けだし、二度とふたたびうしろをふりむかなかった。 |
ベスト・フレンズ |
突き刺すような不快な雨のそぼ降る中、彼は急ぎ足で駐車場をぬけてマーベリー記念病院の玄関をくぐった。右脇にたばさんだ暗褐色の書類カバンには、ある怪物に関する記録がはいっている。 |
だが、夢も見ないほど深い眠りにはいりこもうとする寸前、ジャックは、さっきの若い看護婦がまたはいってきたように思った。というのも、たしかににおいがしたからだ。ステーキの、肉の匂いが。 |