商店街から露地を抜けると、武家屋敷やお寺が城下町の頃の姿のまま残された一画、仁王座(におうざ)に出た。風情ある町並みが続く。休憩所にされているかつてのお寺は無人で、上がってみると中二階に秘密っぽい座敷があった。「ここにこっそり住み着こうかな」と妙に落ち着く部屋で、みんなで転がりひと休み。窓を開けて写真をパチリ。
白壁、瓦、質素な植え込み、桜が散り敷いた石の道。
こうした場所を歩いていると身体の中までしんと静かになっていく。交わす言葉はなくとも、誰もが穏やかな笑みを浮かべている。あぁ、日本人なのだと思う。
青い空から吹雪いてくる桜の花びら。見上げると小さな看板に『万葉しおりの店』とある。坂道を上っていくと、見晴しの良い庭が迎えてくれた。古い屋敷をそのままギャラリーにしてあり、お抹茶をいただきながら、その店のおじいちゃんの話に耳を傾けた。
鳥のこと、木々や花のこと、そしてこの町のこと……古裂縮緬で作られた小さな雛人形たちやお手玉、匂い袋、栞とさまざまな小物や古道具に囲まれた座敷に穏やかな声がひろがり、時が行きつ戻りつ。
かつて城内の見張り番役だったというこの家の窓からは、目線の高さを旋回する鳶の姿が驚くほど近くに見えた。思わず長居をしてしまう心地よさがあった。
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