海と空と針槐 > ご近所瓦版 > ミステリー“鳥” The Birds  
   


この物語はフィクションではない!

某月某日、クリスマスも近い大阪のとあるビルを密かに抜け出す黒い影があった。人目をはばかるように急ぎ足で大通りを走り抜けていく怪しげな影の、ひときわ目立つ色白の手に握られているのは……デジカメ。いつになく引き締まったその横顔には、大胆にも不適な笑みさえ浮かべていた。
黒い影。お気楽な会社員を装ったその正体は、「針槐追っかけ隊」という謎の組織に属す人物・・・暗号名「もんた」。自らをもんた特派員と名乗る、やっぱり謎の人物であった。はたして今回の謎の行動は?ひたすらに空を見上げるその視線の先にはいったい何が……?
足早に先を急いでいたもんた特派員の足がふと止まった。 視線は相変わらずひたと空を見すえている。その視線を追っていくと…………

 

ムクドリの群1

おぉ〜〜〜〜〜!

そこには驚くべき光景が拡がっていた。見渡す限り、鳥、鳥、鳥・・・。
見事な早業でデジカメを構えたもんた特派員は続けざまにシャッターを押す
………口が開いてるぞ………シャッターを押す………首が痛い………それでも構うものか!とシャッターを押し続けた。
視線を落とすと軽いめまいを感じたが、時間は限られている。一刻も早く任務を終え、会社に戻らなければ、首は痛いどころではすまなくなくなってしまうのだ。
「クビ……」と短く呟くとぐるりと頭を回し、いつしか猛烈な勢いで走り始めていた。
走る...走る...走...こけた...けど...走る...

許される時間はもうない。公園の大きな木の根元に辿り着くと、もんた特派員は息をつく暇もなく再びシャッターを押しはじめた。
カシャ……チクタク……カシャ、
カシャ……冷や汗……カシャ、
カシャ……チクタク……カシャ、
カシャ……クビ……カシャ、
カシャ……チクタク……カシャ、
……私、なにしてんだろう……
「今日はこのくらいで勘弁してやろう」
不敵な微笑みと汗と首の痛みに顔をゆがめながら、もんた特派員は再び転がるように走り始めた。

会社に戻るとなに食わぬ顔を装い、まるでちょっとトイレにでも行ってきたのだという風を装ってみたが、生来の臆病さが顔をだし、内心はちょっとドキドキしていた。
ムクドリの群2
窓を覆うムクドリの群

「やった!できるだけのことはやった!じ〜〜〜ん……」 もんた特派員は満足げに呟いた。自分に科せられた任務・・・かつてない程のムクドリの大群の写真は撮り終えた。が、無理な体勢で、しかも周囲を気にかけながらの撮影だったもので、写真の中でビルが傾いていることを、この時、もんた特派員は知る由もなかった。

日も暮れた頃、机の電話が鳴る。もんた特派員の顔に緊張が走る。
「ちゅんちゅか」電話の声が言う。
「ちょんの字」もんた特派員が応える。
合言葉らしい。
「もんた特派員、今回の君の使命は終わった。少しばかりビルが傾いていたがね。ま、良しとしよう。それから、そちらの会社で君に関する奇妙な噂が拡がっている。 用心したまえ。」

「妙な噂」・・・ヤマアラシのように自分に突き刺さる社内の視線を思い出し、もんた特派員はぶるっと身震いをした。
「さて、次なる使命だ・・・・・“サンタ”を追え!」
「三太……って、誰……?」切れた電話に向かって、もんた特派員は呆然と呟いた。

つづく…かも(^0^)


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