RITZのお仕事紹介
たまに訪ねてくる友人たち、今度はどうやって驚かせてやろうかな・・・ お豆腐が入っていた竹篭、納豆を包んでいた薄板、思い付きでなんでも素敵な食器になります。かわいい植木鉢に大皿を乗せたり、ケトルや花瓶にイタリアンパセリやスティックサラダを挿したり、ハーブの小枝の箸置きも重宝します。テーブルに様々な緑の彩りを添えると食卓は高原のように爽やかになります。来客がある時は、友人たちの喜ぶ顔を思い浮かべながらウキウキ準備をします。 以前、パスタ瓶に丈高くフェンネルとセロリを飾りました。もちろんこれもスティックサラダの気分です。とても瑞々しかったので、こっそり人参の葉っぱも挿しておきました。「これはなんてハーブ?」・・・見てみると都会暮らしで人参の葉っぱを見たこともなかった友人たち、人参の葉っぱまであらかた食べ尽くしていました。「ひぇ〜、なんでも食っちまうのね〜」・・・私はちょっとしたイタズラも大好きです。
仕事は、カメラマンで良き友人でもあるスタジオのボスと行く、撮影現場のロケハン(下見と下撮り)から始まります。キッチンやリビング、テラスや庭などの雰囲気からそこに似合いそうなテーマやメニューを考え、モデルさんの動きに合わせて食材をイメージします。そして、撮影の日程に合わせて食材を調達したり、具体的なメニュー構成や盛り付けを考えたり、メニューによっては前日から料理の仕込みをすることもあります。 撮影当日はRITZのなにより苦手とする早起きから始まります。ボケボケながらに支度を済ますと、その日使うハーブや飾りに使う花や枝などを庭から調達し、山盛りの食材を抱えてドライブです。遠いところでは片道3時間のドライブになる場合もあるし、本番前には現地調達の食材も買い込まなければなりません。コワイのは出発前のこの時間です。 ネット上でも幾度も恥をさらした経験のある天下無敵の粗忽者RITZにとって、なによりも大事なのは「忘れものをしないこと!!!」。使い慣れた包丁や道具類が詰まった段ボール、前夜から積み込めるものはすべて車に積み込んでおきます。もうひうとつ忘れてはならないのが室内用シューズです。スリッパで動き回っていると翌日にはひどい筋肉痛に悩まされることになるので、数足をいつも車に乗せています。「あれよし、これよし、準備は・・・OK。いざ、出陣!」 ・・・と、これだけ念入りに準備しても、やはり忘れるのがRITZという人間です。撮影現場までの地図、買い物リスト、メニューと作業行程リスト、冷蔵庫にしまった食材、財布、持ち慣れない携帯電話、コンタクトレンズ、バッグ、etc.....。見守る家族は寝ていられないとか・・・とほほ。
持ち込んだ道具や食材、次々と洗った野菜をキッチンに並べます。この状態も撮るので、見栄え良くかつ無造作に並べます。撮影が終わったら、新鮮さを保つために野菜はまた水の中に戻します。 新鮮さと言えば・・・手や指先のお手入れも欠かせなくなりました。モデルさんが料理をするシーンの下ごしらえなどしている時に、刻む、茹でる、混ぜる、フライパンを振る・・などの作業の手許をバシバシ撮られるからです。「あとで修正できます」なんぞと茶化されますが、このデカイ手が日の目を見ることも滅多にない機会なので、指輪なし、マニキュアなし、短かい爪でもイケテル手を保つよう心がけています。早朝からざんばら髪をバンダナや帽子で隠して出かける日々ですから、首から上は使ってもらえそうにありません(注:写真はモデルさん)。 さてさて、料理はいよいよ完成へと進みます。中でも一番気を使うのは食器選びと盛り付けです。肉眼で見たものとレンズが捉えるものには思わぬ差が出るようですので、この行程はボスと相談しながらの作業になります。態度はでかいですがまだまだ新米だし、用意していたものが思ったほど効果的でなかったり、光の加減で色が良くなかったりと思わぬ状況もあるので、即座に対応できるよう準備も怠れません。 こうして最後の後かたずけまでめまぐるしく時間が過ぎていきます。最近になってようやく、エプロンのポッケに隠し持ったデジカメで、ちょろりと横から盗み撮りをする余裕が出てきました。 【RITZ流エッセンス】
撮影の後、総勢十人を越えるスタッフやモデルさんたち、家を提供してくださったご家族がリビングにひしめきあって私の料理を食べてくれる光景・・・これを見るのもこの仕事の大きな楽しみです。腹ぺこ若手カメラマンたちのゲップの音さえ涼やかにRITZの耳をくすぐります。だから同じ手間で材料もあるのならなら、なるべくたくさん作るようにしています。 その日作った料理を囲んであっちこっちで話がはずみ、料理についての意見を聞くこともできますし、作り方や盛り付けやハーブの話などするうちに新しいアイデアが浮かぶこともあります。みんなくつろいでわいわいがやがや・・・料理は食べてくれる人あってこそのものなのだなぁと、つくづく嬉しいご褒美のようなのひとときです。ただ、美味しそうなワインが飲めないことだけが心残り……。
プロの撮影風景というのはそうそう立ち合えるものではないので、家を貸してくださるご家族は興味深々。でも、家中を駆けずり回るカメラマンやアシスタントの姿に「邪魔になるのでは?」とかたずけられた荷物と一緒に部屋に閉じこもるご家族がほとんどです。それを引きずり出して楽しんでもらうのもRITZの役目です。 やがて子供たちは突如モデルに借り出されてはにかんでいたり、ご主人は撮影風景を撮影して楽しんだり、奥様はハーブの使い方や盛り付けをメモしたりと気軽に楽しんでくれます。途中、家族写真など撮る頃にはみなさんすっかりリラックス。後日贈られる写真はなにより喜ばれます。友人の欲目抜きに、私のボスは最高の笑顔を捉えるスペシャリストなのです。 こうしたご家族の笑顔はRITZの仕事への自信として積み重なってゆき、ある日一軒の家のドアベルを押す力になりました。「ピンポーン♪」 素敵なインテリアの住宅の一部を喫茶店にしておられましたが、すでに廃業している上、ご主人とは数年前に一度立ち寄ったときにちょこっとお話をした程度に過ぎないのです。そのお家のドアの前・・・心臓があっぷあっぷしていました。でも、この仕事を始めた時にまっ先に頭に浮かんだ家です。え〜い、ままよ!と体当たりしてみると、運良くご主人はRITZを覚えていてくださり、快く撮影に家を貸してくださいました。先日撮影も無事終了して、とても喜んでいただけました。 新鮮な食材がすぐに手に入る田舎暮らしがひょんなところで仕事に役立っているように、怖れを知らぬ私の性格も思わぬところで役に立っているようです。今、私の手帳には、面識もコネもない素敵な家の写真が3枚、大事にクリップされています。次の体当たりは成功なるか……?いつか、貴方の家のドアベルが鳴ったら………RITZが立っているかもしれませんよ(=^^=)Y 2003年6月 |