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ちょんの字が行く
エピソード1

1999年6の月、恐怖の大王にはちと早いが 空から墜ちてきたのは……すずめの赤ちゃん!!!
 すずめの“ちょんの字”と“グッチ婆さん19歳” てんてこ舞いのRITZを間に
さてさて、どんなお話になるのやら……なになに、「三匹が行く」ですと???
 

●6月23日(水)雨のち暴風、豪雨 (1日目)
すずめ騒動勃発

暴風吹き荒れる夕刻、主人がテラスの掃除を始めた。何故かというと、以前の暴風の日に丸裸のすずめの赤ん坊が三羽、巣から落ちて死んでいたからだ。ところが、今回もまた小さなヒナが落ちていた。溜め息混じりに主人が帚で掃き寄せようと触れるとると、なんと、微かに動いた! さぁ大変!これがすずめ騒動の始まりだった。

“落ちたヒナは巣に返す”が原則らしいが、すずめの巣は我が家の日除けテントと壁の隙間の奥。手が入らない上に巣がどうなっているかも見えない。すでに陽は暮れ、暴風に加えて雨も降り出した。すずめ達は巣の中から一羽も出て来ない上、日頃すずめを狙ってくる猫やヘビのこともあり、やむなく私達は子すずめを保護した。
しかし、すずめ……。ずいぶん昔に迷子のインコを一週間保護したことはあるが、そのインコは成鳥で人なつこくて食欲も旺盛だった。我が家の猫たちとも平気で遊んでいたくらい。それに比べこのヒナはよくよく見ると眼が開いたばかりのちっちゃな赤ン坊。体長5〜6cm?、羽は生え揃っておらず、無気味な赤い地肌が見えている(正直なところ、ちょっと苦手である)。翼も広げるとまだスカスカで、鳴くこともできない。ケガはないようだがかなり衰弱しているようだった。正直なところ、素手で触れるにはかなりの勇気が必要だった。
まずは濡れた羽根を拭き、タオルでくるみ、そのまま小振りな発泡スチロールの中にワラ、ティッシュを入れた即席の巣箱に入れた。それから・・・次は何? 何をしたら良いの???

私は大慌てでインターネット上のハーブ仲間や友人達のホームページの掲示板へ投稿をし続けた。「体長5〜6cm、すずめの赤ちゃんが巣から落ちて重体!すずめの赤ちゃんの餌、餌の与え方、温め方、その他なんでも結構です。情報をください!」
インターネットはやはり便利なだけでなく、素晴らしいものだった。一時間もすると知人から、見知らぬ人からたくさんの情報や応援、そしてすずめや野鳥、野鳥の会、獣医師会のホームページのアドレスが次々と届き始めた。情報をもとに私は即席巣箱の片隅にホッカイロを入れてヒナを温め、お粥状にした米粒を一時間置きに食べさせた。こんな騒動を、グッチ婆さんはなにも知らない。


●6月24日(木)強風、雨 (2日め)
餌やりに四苦八苦

早朝から起きだして(私にしてはスゴイことなのだ!!!)一時間ごとにすずめっ子の餌やり。ずいぶん元気になった様子。黒ゴマのような眼もぱっちり開いた。まだまだ分からないことだらけなので、餌やリの合間にはインターネットでの情報収集に掛かりっきりだ。掲示板への返事やメールなど情報はかなり増えていた。

朝一番に獣医や地元の保護施設、野鳥の会へ電話を入れたが気が滅入る意見が多かった。どうやら私が薄っぺらな博愛主義ですずめを保護したと思ったらしい。逆にすずめを保護して育てている方達からのメールやホームページには希望がたくさん見えた。この微妙な差は私には意外だった。兵庫のペットショップ(メールで貰った情報)の方にも栄養、健康を考えた餌の与え方など詳しく教えていただき、親切に励ましていただいた。

それにしてもヘトヘト。大きめの耳かきを使って、慣れない餌やりに四苦八苦している。なにしろ相手は拳の中に隠れるくらいの赤ちゃんすずめ。とにかく食べさせろという情報もあり、主人と二人掛かりでひたすら小さな口に押し込むが、傷付けるのではないかと気が気でない。餌は固茹での卵の黄身を蜂蜜と牛乳で溶いたもの。米粒お粥と交互に与えている。
午後、フードポンプなるものを買いに走ったが、結局大きすぎたらしく危うくすずめっ子を餌で溺死させるとこだった。冷や汗だら〜り。。。ストローで作った匙は何故か怖がるし、再び耳かきに戻る。鳴かないので餌やりのタイミングもつかめない。一体、いつになったら鳴いて知らせてくれるのか……。すずめと共に起き、すずめと共に寝る生活、一体いつまで続くのか……。これではなんにもできない。こんな私の苦労を、グッチ婆さんはなにも知らない。


●6月25日(金)雨時々曇り (3日め)
鳴いた!食った!やった!

聞き慣れない音に眼を覚ますと、すずめっ子がか細い声で鳴いていた。主人は呼吸音だろうと言うが、昨日までとは確かに違う。巣箱の中でもごそごそと動き回るようになった。このまま順調に元気になってくれ!神様仏様!という私を。グッチ婆さんが怪訝そうに見ていた。危ない、危ない。。。
昼に巨大なマロウ(ハーブ)から葉巻き虫を採ってきて与えたところ、ナント、猛烈な勢いで食い付いてきた!しかも虫をねだってピーピー元気に鳴き出した。おぉ!おぉ!これが欲しかったのね……と天にも舞い上がる気分。3cm近くにまるまる太ったアオムシ君もぺロリ・・・丸呑み(驚)。

夕方、テラスにまた別のヒナが一羽、今度は巣ごと落ちていた。え〜〜〜っ!と思いきや、ヒナは私たちに気付き、まるでチビトトロのように一目散に走って鉢陰に隠れた。場所から見て、たぶん以前落ちて死んでしまったヒナたちの生き残りのようだ。うちのすずめっ子よりも少し大きく、巣立ちもそろそろのようだ。風雨は強いものの、親鳥たちも心配そうに騒いでいた。
巣には戻せないので、発泡スチロール、ざる、ワラで雨除けを付けた仮設住宅を作り、巣が滑って落ちないように枠を作り、すずめの団地のテントの上に頑丈に固定。手袋をはめてヒナを入れた。

夜、風雨共に激しくなり、仮設住宅のヒナが心配。アオムシをたらふく食べたすずめっ子は夜7時には熟睡モードに入ったらしい。久々に穏やかな深夜、抜き足差し足で夫婦揃ってすずめっ個の様子を見た後・・・突然主人が言い出した。
「なんであんな一口オニギリみたいなヤツのために、オレたち自分の家を忍び足で歩かなきゃいけないんだ?いつまでこんなにこそこそひそひそやるわけ?」・・・と、二人して大爆笑。すずめっ子の元気は私たちの笑顔の元になっていた。


●6月26日(土)雨時々曇り (4日め)
マロウとすずめっ子の共生…?

アオムシの効果絶大!今朝はすずめっ子の元気な鳴き声で眼が覚めた。今日で四日め、すっかり回復して順調に育っている様子。この頃は足元もしっかりしてきて、私の手の平を離れ、腕から肩へ行ったり来たり。今も元気に餌〜、餌〜!と黒ゴマのような眼をぱっちりと開け、大きな声で鳴いている。小さな大食漢、その食べっぷりは見事なもの!鶴の子饅頭ほどの身体はまるで小さなバキューム、いっぱいに開いた口がほら穴に見えてしまう……。
今やアオムシ捕獲木と化した巨大なマロウ三本の葉巻き虫達は、たった三日のうちにほとんどすずめっ子の小さなお腹に収まってしまった。お陰でマロウは元気を取り戻し、再び若葉を伸ばし始めた。今度はまたすずめっ子の為に、たくさんのアオムシや葉巻き虫たちを呼び寄せてくれるだろう。小さな共生関係の成立だ。
だがしかし、ブラックホールのようなすずめっ子の胃袋はそれまで待てない。食欲はととどまるところを知らず、私は雨の合間のアオムシ探し。近隣にもアオムシがいたらくださいと頼んでみようか。
庭の方もひどい有り様になってきた。このところの激しい風雨で針槐の葉はボロボロに痛み、バジルは真っ黒。あちこちで枝が折れ、雨に洗われて根がむき出しになったものも多数。誰が、いつ、この荒れ果てた庭の手入れをするのだろう……と、寝不足がちの頭で考えてみたが、答えはなし。

昨夜のヒナは無事なようで、親鳥がせっせと餌を運び、ワラを運んでは仮設住宅補強に着手していた。ひとまず安心。アオムシ君のお陰ですずめっ子は満腹、熟睡。私も寝るぞー!!こんな私の疲労を、グッチ婆さんはなにも知らない。


●6月27日(日)雲りのち雨 (5日め) 
よき隣人

すずめっ子はたっぷり食べては静かになり、一時間もすると大きな声で自慢げにピーチク。すでにマロウの虫は食べ尽くし、私はピンセット片手に餌を求めて庭を這い回る。すずめってのはなんて働き者なんだろうとこの頃よく思う。なにしろうちのすずめっ子、私が一時間かけて探し出したアオムシをたった一分で平らげてしまう。
と、その時「何をしているの?」。振り向くと隣の奥さん、訳を話すと、しばらくしてたくさんのアオムシを持って来てくれた。感謝感激、持つべきものは良き隣人。
しばらくすると今度はご主人のお出まし、私の庭の師匠の一人。「これ使いなさい」とくれたのはお椀サイズの小さな鳥の巣。何の巣かは分からないけれど、真ん中には計ってくり抜いたように半円形の穴。どんな鳥がこの小さな匠の作品を創ったのか……。でも残念ながら、最近アオムシ太りのすずめっ子にはちと小さかった。
よく見てみると、羽毛も生え揃い、スカスカだった翼もそれらしく整って来た。この頃はよく自慢げに翼を大きく拡げては、飛び立つ練習でもしているように見える。翼の下はまだ赤い肌が見えていて、まだまだお粗末なものだが……。
同じ屋根の下でのちいさなすずめのこんな成長ぶりを、グッチ婆さんはまったく知らない。


●6月28日(月)雲り時々晴れ (6日め)
ぎゃぁ〜〜〜!/野菜畑ついに完成!

午前中、隣の奥さんから聞いたというご近所の方がアオムシを届けてくれた!感謝を通り越して感動……。雨の中、餌を求めて彷徨う私に同情した隣の奥さんの広報の成果だった。ただ、みな口々に「探したけど、そんなにおらんでねぇ」と言う。私の収穫もさっぱりだ。去年の今頃は、雨の間にごっそり葉っぱを喰われていたという事が幾度もあったような気がするが・・・と、見回せば飛び交う蝶々たち……。そぅ、そろそろ蝶たちの季節なのだ。みんな、蝶々や蛾になってしまったんだろうか?さて、どうしたものか……。
私の心配をよそに、ご近所からの届けものに満腹、熟睡のすずめっ子といただきものの饅頭でこれまた満腹ご機嫌の姑の菊ちゃん。どうして私だけ・・・と、久々に庭仕事を満喫。野菜畑のやり残し1m×2.5mを一挙に耕し、種から育てたオクラ、赤オクラ、オクラに似た花とやらの苗、アフロバジルを定植。野菜畑はついに完成!なんとなく、生活に余裕が戻ってきたような気もした。

完成した野菜畑を満足げに眺めていると「きれいに出来たわねぇ」と、お隣りの奥さん。我が家には塀もなにも無いので、近所の方の出入りも自由。玄関側はご近所の行き来の近道にもなっていて、よく奥さんたちが立ち話をしている。
さて、お隣りの奥さんが「はい」と何かを差し出すので、私も「なんですか?」と手を差し出した。手の平に妙に柔らかい感触。見るところころ太ったアオムシが数匹・・・「ぎゃぁ〜〜りがとうございます!」と悲鳴を呑み込んで返事をしたものの、身体はコチコチ、足はガクガク全身鳥皮状態。
じつは私、素手でアオムシには触れたことがないのである。ガーデニングには一端のことを言えるようになったものの、幼虫の類はとんと苦手なままなのだ。心の中で叫び続けながら、ぎくしゃくとアオムシを捧げ持って運びながら、凍り付いた片腕の先でもぞもぞと蠢く物体に全神経を引き寄せられながら、事務所からこちらを見ている主人に「取って!」「取って!」と叫ぼうにも口だけ開いて声は出ず・・・気絶するかと思った。
夕方、今後の食料危機に備えて買い物の途中でメジロの餌を買ってみたところ、結構よく食べた。固ゆで卵の黄身はあまり食べなかったので、これでなんとか過ごせそうだ。最近、ちょくちょくグッチの餌をすずめっ子にいただいていたのがバレたのか、このところグッチ婆さんの食欲も増している。今以上に太らなければよいのだが。


●6月29日(火)雲り時々晴れ (7日め)
なんて可愛い寝姿!!

朝からまたまた暴風豪雨。雨音の激しさにすずめっ子は怯えた様子で、今日は一日付きっきりになりなんにもできない。ふと思い立って、すずめっ子をポケットに入れてみた。しばらくごそごそしていたかと思うと、ナント、すぐに熟睡モード!少々動いてもへっちゃらの様子、お陰で帳簿仕事がはかどった。
そっと覗いてみると、嘴を小さく開いて、時々むにゃむにゃしながら寝ている。欠伸のような仕種もする。新発見!もぅ、もぅ、もぅ、ひねり潰したいほど、可愛い。だが、目が覚めると猛烈に鳴きながら這い出してくる。さて、餌の時間・・・と思いきや、机の上まで10cm、飛んだ?いや、落ちたのかも……?世話を始めて今日でちょうど一週間。テラスのすずめたちの鳴き声に首をかしげ、一生懸命鳴いているすずめっ子を見ていると、なんとしてでも自然に返してあげたいと思う。

はじめはできるだけ触れずに育てようと思っていた。だが、餌は口を開かせてあげなければならなくて、どうしても手で掴む事になった。加えて巣箱の掃除、ウンチくんの除去、カイロの取り替えと一日に何度も手の平に乗せているうちに、すっかりなついてしまった。今日のように落ち着かない日には私の手の中に潜り込み、軽く握ってやるとすぐに安心して寝てしまうという状態になってしまった。
先のことはまだ分からないが、戻せるにしろ、戻せないにしろ、自由に伸び伸びと育ててやりたいものだ。ただし、戻せる可能性のある限りは、グッチ婆さんとは隔離しておかなければ。
グッチ婆さんは今だに、なんっにも気付かない。


●6月30日(水)雲り時々晴れ(8日め)
飛んだ〜〜〜!!!

飛んだ〜!すずめッ子が飛んだ!!!
餌やりの最中に友人から電話。仕方なくそのまま話していたら、はじめはいつものように私の腕を行ったり来たり、羽をばたつかせたりしてたのだけど、ぴょこんと5cm飛び、次には10cm、ウソ〜!と喜こぶ間もなく突然、2mも一気に飛んだ。もぅ、び〜〜〜っくり。そして、カッコ良くキッチンの棚に捕まろう、と、っと、墜落。慌ててすくい上げるとケガはなく、すずめっ子もび〜〜〜っくりっといった様子で、呆然。
慌ててお隣から鳥かご(嬉しいほどボロボロ)を借りてきて入れてみた。止まり木があまりにも太いようなので、柳の細枝を切ってきて臨時の止まり木を作った。はじめは落ち着かない様子で特製の止まり木でじっとしていたが、しばらくするとぼちぼちと探検を始めた。結構なんにでもすぐに慣れるものだと、これまたびっくり。
体長もいつの間にか8cmになり、色艶良好。順調に育っているようで、よく食べ、よく鳴き、よく遊びといったところ。(よく出すのが玉に傷)。
午前中2時間の飛行練習、午後には2時間を2回。途中、私の掌やポケットに潜り込んでひと休み。やはり疲れるようで、すぐにぐっすり。相変わらず口を開けて寝こけていた。ウンチクンを所構わずポットン……なので、練習中は付きっきりになる。その分、カゴに戻しても静かなので私は庭へ。コットン、パプリカ、セージを定植。

初飛びを記念して、すずめっ子に名前をつける事になった。大食いのご先祖様の名をいただいて“レックス(.T)”という候補もあったが、あっという間に“ちょんの字”に決定。そんな名前の家族が増えた事を、グッチ婆さんはいまだに知らない。

つづく

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