エピソード3:それぞれの道へ
●6月22日(木) 雨(21日め)冒険と休息
居間の吹き抜けの梁を無難に飛び回るようになったピオは、一旦飛び立つと腹ぺこになるまで2〜3時間も降りてこない。呼ぶと律儀に返事だけはするのだが、顔は窓の外を向いている。梁の上でちいさな虫などを啄みながら、外のすずめたちを追い掛けたり、居眠りをしたり、自分なりに楽しんでいるように見える。
その間、独りぼっちでは不安でならない様子のディーディーはRITZの掌の中で過ごすことになる。左足が全く役に立っていないディーディー、RITZの掌の中ではなんとか身体を支え、羽繕いをしたり爪の手入れをしたり、思いきり伸びをしたりする。そして、ひとしきり羽ばたきを繰り返した後、ひたすら眠る。。
ピオが降りてくると、2羽は寝室の窓辺で過ごすのだが、喧嘩をしながらもいつも2羽で寄り添っている。ディーディーは平地では自分の身体を立てておくのが精一杯だが、転げても自力でなんとか起き上がるようになった。ゆらゆら揺れながらも嘴で身体を支えたりしながら餌を啄もうとする。1時間近く眺めていても一粒も口に入っていないのだが、転げては起き上がり、逆さになっては起き上がり、餌を啄む練習を続けている。以前よりは立っていられる時間が長くなったが、鳴き声は小さくなった。見ていると悲しくなるが、同時に感心もしている。彼らは諦めるということをしないのだろう。
●6月23日(金) 曇(22日め)夜遊びすずめ
日が暮れて外のすずめたちが静かになると、最後の餌の時間。ピオはこれが最後と言わんばかりの恐るべき食欲を見せ、ディーディーもこの時間にはよく食べる。外が暗くなりはじめるとピオはとても甘える。RITZの腕、肩、頭とまとわり付いて離れない。時には掌の中に潜り込んだり、脇の辺りに入り込んでか細く甘えた声を出す。応えてやると思いっきり身体を膨らませて喜ぶ。外のすずめたちも日暮れのひと時はこうして過ごすのかもしれない。巣立ちの頃のヒナを親鳥は厳しくしつける分、日暮れ前のこの一時はたっぷりと甘やかすのではないだろうか……。
ひと遊びした後は鳥かごの中へ。すぐにタオルをかけずに日が暮れて暗くなっていく様を見せるようにしている。ピオは枝の上にうずくまり、静かに外を眺めている。ディーディーは箱の中に敷き詰めた新聞紙の切りくずの中をしばらくごそごそと這い回る。日がとっぷりと暮れたら鳥かごをタオルで覆う。こうして彼等の一日は終わる。
終わった筈なのだが、ディーディーはたまに深夜の散歩を楽しんでいることがある。。昨日も一昨日も、ディーディーが小さな声で鳴くので鳥かごを覗いてみると・・・いない。呼ぶと遠くからディーディーの声が。電気をつけてみると部屋の隅にぽつんといる。お隣からいただいたオンボロの鳥かごは入り口がきちんと閉まらず、ディーディーはその隙間からタオルをくぐり抜けて夜毎の脱出を試みているらしい。そして今夜も、どこかでディーディーの声がする……!?
●6月24日(土) 晴たまに雨(23日め)初めての水浴び
久々に晴れて暖かい午前中、初めての水浴びに挑戦。ちょんの字の時同様に数日前からサランラップを置いているのだが、どちらも見向きもしていない。ラップの上に水滴を垂らして、ピオに少しづつ水をかける。羽根をばたつかせ始めたところでラップの上に連れていくと・・・大成功!盃一杯程もない水の上で、上手に水浴びを始めた。ディーディーはじーっと見ているだけ。。
午後、水の量を増やして再度挑戦。ピオは今度も怖がらずに・・・と思っているうちにいきなりディーディーが飛び込んだ!もちろん、自分から入った訳ではなく、羽ばたいたら水の中だった・・・という訳だ。大慌てで転げ回るので、RITZが助けあげた時には全身びしょ濡れ。。ずぶ塗れで震えているディーディーをタオルで拭いているとピオもすり寄ってきて、2羽を両手に乾くまでお昼寝。
●6月25日(日) 曇ときどき晴(24日め)R2D2溺れる
1時間半置きに餌やりをしながら掃除・洗濯と、午前中は慌ただしく過ぎていく。昼前、餌をやりに寝室へ行くと、なんだかディーディーがやけに小さい。えっ?と見ると、今朝ピオに挑戦させよう挿しておいた野沢菜の小鉢の中で溺れかけたらしく、びしょ濡れのディーディーがRITZめがけて一目散に這ってきた。。自分でも思いもかけないところへ飛んでいくのだ。危ない、危ない。下手をしたらどこかで溺れてしまうこともある。気をつけなくっちゃ。。。
ディーディーを拭いている間、ついでにとピオにも水浴びをさせたが、今日は水の量を奮発し過ぎたのが気に入らなかったらしく、怒りのピオはRITZのおでこに突進してきた。災難続出の一日だった。。。
●6月26日(月) 雨(25日め)C3POの敵
早朝、鳥かごのタオルを開くと、ピオが口を開けて待っている。
毎朝のことながら笑みがこぼれ、楽しい一日が始まる。ピオはガツガツと朝ご飯をかき込むと、すたこら窓辺へ飛んでいく。それからゆっくり、ディーディーの口に朝ご飯を詰め込んでいく。ピオの後を追い掛けたいディーディーは気もそぞろで、朝の餌やりは一番大変だ。でも、今朝は雨、ピオが近くにいるのでディーディーも落ち着いてお食事。
と思いきや、ピオはまた新しい遊びをみつけた様子。今度のターゲットはRITZの足の指。。口を開いて威嚇しながらつっ突き回している。これまでにもRITZの顔、おでこと目に付くとつっ突き攻撃を仕掛けてくることが判明しているが、足の指もどうやら敵とみなされたらしい。ピオのつっ突き攻撃は、結構、痛い。ちなみに、ピオにはGONZOも敵であるらしい。。。
●6月27日(火) 雨&暴風(26日め)この雀、凶暴につき……
朝からの凄まじい暴風は台風並。ピオもディーディーもガラスの向うでうねる木々やお辞儀を繰り返すハーブたち、轟々という風の音やたまに激しく叩き付ける雨に脅えた様子で、部屋の片隅で静かに重なり合って……!?
と見ると、なんとピオは転がったディーディーの上に乗って静かに窓の外を眺めていた。。片やディーディーは・・・眠っていた。なんとも頼もしいコンビである。
こういう場面で私が近寄ると(お腹が空いてない場合)、結構ひどいことになる。一見喜んでいるかに見えるピオは私のおでこめがけて、眼ン玉めがけて突進してくる。ディーディーを守ろうとしているのか、餌場を守ろうとしているのか、はたまたただ喜んでいるのかは定かではない。そろそろ本格的な巣立ちの到来かもしれない。このところしきりに喉を転がすように、歌うように鳴いていることが多い。
つっ突かれたり転がされたり、下敷きにされたりのディーディーだが、かといっていつも負けているわけではない。鳴き声での牽制では、どうやらディーディーが上を行くようだ。たまにやり返されて無口になるピオは、ソファーカバーのフリンジをほぐし、タオル相手に格闘し、私の髪で砂浴び練習を繰り返していた。
●6月28日(水) 雨&暴風(27日め)やれやれ
早朝4時半にダースベーダー・グッチの猛烈な夜鳴きに起こされた。土砂降りの中、外に出せと鳴き張ってきかない。仕方なくグッチがかごの中で落ち着くまで付き合うことにした。空が白みかけてくると、今度はちび共が大口を開けて待っている。やれやれとまた一日が始まった。
雨混じりの風は今日も激しく、止みそうにはない。窓から見えるハーブガーデンでは、いつの間にか雑草が伸びきっている。満開のフェーバーフューは芝生の上に倒れたまま空に向かって咲いている。今日は私が仕込んで、佐賀、長崎の二ケ所で催されるハーブ・イベントのパンフレットを配って回る日。買い物も山盛りだというのに、なんだかとほほな気分。
昼過ぎ、食事の支度をしていると、菊の字がまたヒナが落ちていると言う。慌てて行ってみると、まだ卵から孵ったばかりのヒナがクッションも何もないところに落ちていた。掌に乗せてみると、雨に打たれて冷たく、ぐったりして動かないが、掌に乗せているとどうしてもまだ温もりがあるような気がして暖め続けた。ヒナの温もりなのか、私の熱が伝わっているだけなのか、あまりに小さすぎてそれさえもわからなかった。
体長が4cmにも満たないヒナ、あと一、二日もすれば保護した時のピオやディーディー位になるのだろう。弱かったのか、あるいは強風の所為か。これも自然淘汰なのか……いろいろ考えてしまう。延命長寿に力を注ぐ人間の世界とは違って、弱きもの去るべしという野生の世界からはみだしてしまう小さな命。ちょっとした助力で空に帰れる鳥たちもいるというのに……。だけど、あまりにも小さすぎて育てられるはずがないとも思う。このまま死なせた方が楽なのではないかとも思う。でも、絶対に無理だと思ったピオやディーディーもここまで来た。頑張れ頑張れと繰り返した。
どうしても暖かみが残っているような気がしてなかなか諦めきれなかったが、夕方、お隣の小さなファーブル君たちと一緒に小さなお墓を作った。子供達は気味が悪いという様子もなく、殊勝な顔をしてそれなりに一生懸命手伝って、花を飾ってくれた。
●6月29日(木) 曇(28日め)悲惨な食事風景
かわいいちび共の食事風景は、思いのほか悲惨である。だんだん横着になってきたヨーダ・RITZのせいで大喰らいのちび共はいつも腹ぺこ。。ピオはムキ餌を食べるようになったものの、ジェラシーからか、ディーディーに餌を与えていると必ず餌をねだる。ピオのためにもと他の部屋での餌やりに挑戦したのだが、これではディーディーの方が落ち着かない。結局、ピオに隠れて餌をやろうとするのだが、目敏いピオさん、決して見逃しはしないのである。
ディーディーはいまだ自力で餌を食べることができず、細工したストローで餌を喉の奥に差し込まなければいけない。もたもたしていると苦痛な様子なので手早くと焦る。なのに食う気満々のディーディーはストローにかぶりついてくる。挙げ句の果ては顔中体中餌だらけ。しかも、それをぷるぷると吹き飛ばすものだから、そこら中が餌だらけになる。それだけでも大変・・・
なのに、ここでハッチャキ・ピオさんの登場!ディーディーの頭に止まり身体に乗り、ディーディーを掴んでいる指に止まり、大口開けてピャーピャーと迫ってくる。。知らんぷりしていると不意に拗ねて背中を見せたりする。なかなかの役者である。。。結局、コイツを先に黙らせようと罠にはまる訳だが、ディーディーもじっとしてはいない。餌をよこせとじたばたもがく、暴れる、落っこちる。。。
これがおよそ2時間おきに訪ずれる修羅場である。食事を終えたディーディーはこくこくと掌で昼寝、ピオはさっさと窓辺に戻り、RITZはディーディー片手に散らばった餌の掃除、糞の始末、顔に飛び散った餌を拭き取る。さて、とマックの前に座り気分を変えて・・・しばらくすると早くも餌の催促が始まる。ぐったり。
●7月1日(土) 晴(30日め)C3POのジレンマ
ほとんどディーディーにかまいっきりのヨーダ・RITZを奪回するべく、ピオは新たな作戦を開始した。
昨日、RITZに目ン玉攻撃をしかけて猛烈に叱られたせいで作戦を切り替えたのか、はたまた心境の変化か……。今朝は心持ち静かにお澄まし顔で掌や膝の上で遊んでいたのだが、昼過ぎには殻付き餌と差し餌で満腹になっているにも関わらず、まとわりついては口を開けてみせる。差し餌を乗せたストローを差し出すと、ナント、食べる振りだけするのだ。ご丁寧に噛む仕種までして……。首を傾げたりして今にもウインクでもしそうな気配だ。
が、しかし、どうにもならないのが自分の短気。RITZに無視れたと思うのか、あるいはディーディーが虐められているとでも思うのか、間もなくおでこ攻撃が始まって、今日もまた、たっぷり叱られるハメになった。。。
|