其の参

◆御題/コラボレーション collaboration ◆噺/一睡庵亭主

長屋のこらぼ

こんちまた、ご機嫌よう!お久しぶりの一睡庵でございます。本日のお題は「長屋のこらぼ」しばらくの間ご辛抱願います。

長屋の花見ってことになると、それはもう大騒ぎでございまして。普段の楽しみっていやぁ、晩酌の肴がひと皿多かっただの、呑み屋で釣り銭をよけい貰っただのぐらいのもんで、ま庶民の娯楽ってやつはそんなもんでしたな。
「俺んち今年もふんばって玉子焼きつくるから、熊公んとこ酒もってこい」
「玉子焼きでふんばるこたぁないだろう。去年の花見じゃ確か玉子の代りにタクアンで誤摩化したじゃねぇか」
「だって大根の生だと白くてごまかせないもん」
「ったくもう、そいでもって何で俺んちが酒なんだよ。魚屋んオヤジは売れ残った桜鯛の切り身、金太んとこのかかぁは木の芽田楽七本、あろうことかあの与太郎さえ花見の場所取りに行くってんだ。おまえだけがタクワンのカケラ、不公平じゃねぇか」
「そこだ!こういう年に一度の祭ごとには長屋一同が一致団結、大ばん振舞いってやつでパァ〜っと」
「なにがそこだよ、なにがパァ〜っとだ。あ、ご隠居ちょっと話を聞いてやってくださいよ」・・・

「近頃のはやりでコラボレーションという言葉がある。異なった背景や技能、文化を持った人々が協力してあるひとつのものを構築する。ま、それぞれの得意分野を出し合ってひとつの目標に向かって頑張るってことですな。長屋の花見も共同作業、楽しくやるためには店子全員の分担と段取りが大切です」
「だったら俺、やっぱし玉子焼き!」
「このしみったれ、がりがり亡者、鮹の頭、ぬすっとうまがい野郎!」
「まぁ、お待ちなさい。去年の暮れの長屋の建増しを思い出しなさい。留さんとこの娘が所帯持つっていうんで、みんなで協力し合ったじゃありませんか。材木の手配は大家さん、所帯道具は荒物屋の初五郎さん、与太郎はふすまの穴ふさぎ、おかみさん連中はおかずを出し合ってみんなの弁当、そして熊さん、あんたが全体を仕切ってたね」
「だっておいら大工だし、長屋で久しぶりの若夫婦だからね」
「そこですよ肝心なのは。こんな貧乏長屋でも、留さんの娘のためにみんなが自分の持ち分で汗水流したんです」

「だから俺は玉子焼きに見えるタクアンを・・・」
「うるさいってんだ、このスットコドッコイ!」
「お止しってば。お城を造るんでも、藁と土をこねてる人と石を積んでる人、壁造ってる人がそれぞれ自分の仕事だけで知らんぷりしてたら、立派なお城はできないでしょ?花見だってそう、参加する全員がどういう風に楽しみたいのか同じ考えを共有していなきゃいけませんよ。これこそ長屋のコラボレーション!」
「へぇ、そいでもって花見はやっぱり歌合戦ってことになりましたんで」
「う〜む。人は花の下に集い手拍子打ち鳴らして酒を酌みかわす、か。そりゃぁ良い趣向だね。オアシもかかんないし、それに全員参加っていうのが良いですね」
「おいらは、高校三年生だなやっぱり、それと歳暮で貰った焼酎持ち込もう」
「あたしは同期の桜だね。それと婆さんに菜の花のおひたしでも作ってもらおう」

「八っ、お前はどうすんだ?」
「俺、団子3兄弟と奈良漬け」
「奈良漬けぇ〜?タクアンはどうしちまった」
「うん、そんだけで腹がふくれて酔っ払えるし、それに奈良漬けは瓜と酒のコラボレーションとも言える」
お後が宜しいようで・・・。