其の弐

◆御題/企業イメージ統合戦略:CI (corporate identity) ◆噺/一睡庵亭主

粗忽のしいあい

こんちまたまた、ご機嫌よう!一睡庵でございます。本日のお題は「粗忽のしいあい」。しばらくの間お耳を拝借いたします。

「おや八ッつあんかい?熊さんもおそろいで。まぁお上がり」「ご隠居、ちょっと見てやってくださいよ、この熊の格好!」「ちわぁ、ご隠居。かーぺんたーずるっくってやつでして。なかなかでやんしょ?」「何がやんしょだ!そんなへんちくりんな仕事着飯食えると思ってんのか」「まあまあ二人とも、落ち着いて。熊さんの話も聞こうじゃないか」

「へえ、近ごろ大工の仕事がめっきり減りやして、暇つぶしに長屋のドブ板の修理なんかやってる始末で。そこで思い切っての大決心。親の代からの◯に熊の字の印半纏、すぱーっと脱ぎ捨てこの格好ぉ、こんな長屋に見切りをつけて、末はライトか安藤かとくらぁ」 「熊公、てめぇまだそんなこと!」

「およしよ八ッつあん、こりゃ熊さんのコーポレイト・アイデンティティだよ」「あいてててぇ?熊公、とんかちで指でも打っちゃったか」 「よっくお聞きよ。企業の持つ特性を内部的に再認識・再構築し、外部にその特性を明確に打ちだし、認識させること。これが世に言うコーポレイト・アイデンティティ、略してCI」

「解んねえ」「あたいも」
「ま平たく言えば、CIてのは身体に合わせた服に着替えるってことだな」
「ますます解んねえ」、「あたいも」
「成長に合わせて窮屈になったら、ひとまわり大きなサイズの服に着替えるってことだよ。新しい服に着替えるためには自分の身体のサイズや特徴を知らなきゃいけません」
「あたいの丈は五尺三寸、目方の方は最近ちょっと太りぎみで・・・」
「これこれ、服てのは例え話しだよ。熊さんその服どうやって選んだんだい?」
「へ、カミさんが今どき半纏は流行らないって息子の服ん中から・・見てた息子が背中に“ベア”って英語入れたらもっと格好いいって」

「そこですよ熊さん!千里の道も一歩から。CIの一歩もそこから始まる。熊さんの得意技とか町内で腕競ってる大工が何人いるかとかのおさらいした上で、自分がどんな大工になりたいのかっていう目標、つまるところだどんな服に着替えるかを、棟梁やオカミさんと内輪でじっくり話合う。これが内部的な再認識・再構築ってことになるわけだ」
「目標ってたって、親子三人おまんまさえ食えりゃ」
「なに今さら言ってんです、せっかく服着替えたのに。新しい大工道具を買うとか、会社にしてオカミさんに算盤まかせるとか、息子に跡継がせるとか色々あるでしょうが」
「へっ、そしたら熊公はご隠居だ」
「だめですよ。目標だけ決めたってCIにゃなりません。“外部に打ちだし認識させる”ってのがあったでしょ。目標決めたらそれに向かって熊さん本人も頑張って変わっていかなきゃいけません。服を着替えるってのはそういうこと」
「服着替えるったて印半纏と息子からかっぱらった、かーぺんたーずるっくの二つっ切りだ」「俺だってハチマキと前掛けだけだぁ」

「ああ、あたしゃだんだん腹が立ってきた。着替えるってのは例えって言ってるだろっ!仕事を広げたかったら、おまえんちのおしゃべりなカミさんに大工仕事の勧誘をやってもらったり!ハイカラな大工が目標だったら、おまえんちの不良息子が言ってたように英語の名前を看板にしたり!」
「ご隠居、人んちのことそんな言わなくたって」
「そういやぁ、熊公んとこの息子髪の毛赤くしたり耳タブ穴あけたり、そうだ!ゆんべはキンキラの服着て夜道歩いてた」
「ちきしょぉ、息子にCIの先をこされた!」

お後が宜しいようで・・・